「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、経済産業省が運営する在職者向けの支援制度です。厚生労働省の教育訓練給付金とは申請の仕組みが大きく異なるため、混同すると手続きでつまずきます。この記事では、事業の仕組みと申請の流れ、専門実践教育訓練給付金との違いを整理しました(出典:経済産業省・careerup.reskilling.go.jp、2026年9月確認)。
リスキリング支援事業とは
転職を目指す在職者を対象に、キャリア相談・リスキリング講座の受講・転職支援までを一体的にサポートする制度です。リスキリング講座を修了すると受講費用の1/2相当額(上限40万円)、転職して1年間継続して就業すると追加で1/5相当額(上限16万円)が補助され、合計で最大56万円の負担軽減を受けられます。
この事業は、令和4年度・5年度の国の補正予算(事業規模850億円)を財源として、経済産業省が「三位一体の労働市場改革」の一環で立ち上げたものです。リスキリング講座の提供と転職エージェントによる支援が別々に行われ、スキルアップを前提とした転職が広がりにくいという課題意識から、キャリア相談・講座受講・転職支援を一つの事業者が一体的に担う仕組みが設計されました(出典:経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業について」2024年11月15日公表資料)。運営は経済産業省及び一般社団法人環境パートナーシップ会議の監督のもと、株式会社野村総合研究所が事務局業務を担っています。学ぶ場所と転職の窓口が分かれていると、講座で身につけたことを応募先にどう伝えるかを自分で組み立てる必要があります。その間をつなごうとする発想は、未経験から職種を変えたい人の実情に沿ったものに映ります。
最も重要な違いは申請先です。専門実践教育訓練給付金がハローワークに個人が直接申請する制度であるのに対し、リスキリング支援事業は個人が国に直接申請する制度ではありません。経済産業省に採択された「補助事業者」(転職支援会社やスクールなど)が実施するサービスを通じて利用する仕組みで、個人はその補助事業者に申し込む形になります。
事業の仕組み:なぜ「企業経由」の補助なのか
この制度を理解するうえで最も分かりにくいのが、お金の流れです。リスキリング支援事業は、個人の口座に給付金が振り込まれる制度ではなく、経済産業省に採択された補助事業者に対して補助金が支払われる制度だからです。
補助事業者には、①キャリア相談対応、②リスキリング提供、③転職支援、④フォローアップの4つを一体で実施することが義務づけられており、このうち一部だけを行う事業は補助対象から外れます。単独の企業がすべてを担う必要はなく、複数の企業が役割分担する「コンソーシアム形式」での申請も認められています。利用する側から見ると、講座を教える会社と転職を支援する会社が別々のこともあるということです。申し込む前に、相談から転職支援までをそれぞれどこが担当するのかを把握しておくと、途中で話の行き違いが起きても落ち着いて対応できます。ただし③転職支援を担当する企業には、職業安定法上の許可または届出(有料・無料職業紹介事業者としての登録)が必須です。対象となる事業者は、国内に事業実施場所を持つ法人・個人事業主、および大学・短期大学・高等専門学校・専修学校などの教育機関で、サークルのような法人格のない団体は対象外とされています。
具体的な資金の流れは、おおむね次の順序で進みます。
- 個人が対象講座を受講し、修了する
- 補助事業者が、受講費用の負担軽減分を個人に対して行う(軽減費用を実際に負担するタイミングは事業者ごとに異なる)
- 補助事業者が確定検査(支払い証跡の確認)を受ける
- 基金設置法人(一般社団法人環境パートナーシップ会議)から補助事業者に補助金が精算払いされる
つまり個人の立場から見ると、「後から給付金を受け取る」というより、「最初から受講料が軽減された状態で講座を利用する」という形に近い制度です。この点は、ハローワークに個人が直接申請し、自分の口座に給付金が振り込まれる専門実践教育訓練給付金とは根本的に仕組みが異なります(出典:careerup.reskilling.go.jp よくあるご質問 No.83、86〜87、2026年4月8日更新分)。
受講料の負担軽減の方法(申し込み時点から安く提示されるのか、受講後に一部が返金されるのか)は補助事業者によって運用が異なります。契約前に、実際の支払いタイミングと金額を必ず補助事業者に確認してください。
補助事業者・対象講座の具体例(プログラミング・IT分野)
対象講座を持つ補助事業者は、経済産業省の公式サイト内「補助事業者を探す」ページ、および「各補助事業者の事業開始状況」一覧(2026年9月14日更新版、経済産業省公式サイトで公開)で確認できます。プログラミング・IT分野に絞っても、次のような事業者が名を連ねています(2026年9月確認、内容は各社のプログラム概要欄に基づく)。
- 株式会社ポテパン(ポテパンキャンプ):Railsエンジニアへの転職に特化したコース
- 株式会社SAMURAI(SAMURAI ENGINEER):未経験からのITエンジニア・Webデザイナー転職向けで、現役エンジニアによるマンツーマン指導が特徴
- 株式会社エスワイシステム:未経験からのソフトウェア開発職への転職を想定し、Javaを使ったWebアプリケーション開発を学ぶ講座
- 株式会社明光キャリアパートナーズ:AWS・CCNA・ITパスポート・基本情報技術者などの資格取得を軸にしたITコース
- ヒートウェーブ株式会社:ホワイトハッカー育成、サイバーセキュリティ技術者育成など、セキュリティ分野に特化した計9講座
- アクサス株式会社:最短2ヶ月・無料で受講できるITインフラエンジニア養成コース(CCNA取得)
いずれも経済産業省の公式一覧に掲載された事業者の一例であり、当サイトが個別に提携・推奨しているものではありません。掲載事業者は公募のたびに増減し、既に新規受付を終了している事業者も含まれるため、申し込みを検討する際は各社の公式サイト、または経済産業省の最新一覧で必ず確認してください。
プログラミングスクールを探す際は、まず気になるスクールの公式サイトで「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の対象コースかどうかを確認し、そのうえで経済産業省の事業者一覧PDFに同じ代表事業者名が載っているかを照合すると、思い込みでの申し込みミスを防げます。
利用の流れ
- 対象講座を持つ補助事業者を探す。この制度に採択されたスクール・転職支援会社を探します。当サイトが掲載しているスクールの中にも対象コースを持つところがあります
- キャリア相談を受ける。補助事業者のキャリアコンサルタント等と、これまでのキャリアの棚卸しやキャリアゴールの設定を行います
- リスキリング講座を受講する。相談内容をもとに、自分に合った講座を受講します
- 転職支援を受ける。講座修了後、転職活動のサポートを受けます
- 負担軽減を受ける。講座修了時に1/2相当額、転職して1年間継続就業した時点でさらに1/5相当額(合計最大56万円)が受講費用の負担軽減という形で反映されます
専門実践教育訓練給付金のように、自分でハローワークへ出向いて書類を提出する手続きはありません。代わりに、対象講座を持つ補助事業者を選ぶこと自体が最初の重要なステップになります。なお、キャリア相談対応と転職支援を通じて、1回30分以上の対面またはオンライン面談を合計2回以上実施することが補助事業の要件とされており、実務上はこの面談を軸に支援が進みます。
対象者の条件
対象者の条件は、キャリア相談対応の支援開始時、具体的には補助事業者への登録時とキャリア相談の初回面談時の両方で在職者(企業等と雇用契約を締結している)であることです。正社員に限らず契約社員・パート・アルバイト・派遣社員、副業・兼業を行っている在職者、休職者も対象に含まれます。一方で、無職の方、フリーランスとしての活動のみを目的とした利用は対象外です。この点は専門実践教育訓練給付金(離職後1年以内などの条件で使える)と明確に異なります。
雇用形態に関する注意点として、国家公務員・地方公務員は原則「企業等と雇用契約を締結している者」に該当しないため対象外ですが、雇用保険に加入している公務員であれば支援を受けられます。独立行政法人等の職員も、雇用保険に加入していれば対象です(出典:careerup.reskilling.go.jp よくあるご質問 No.16〜17、2026年1月・5月更新)。
リスキリング講座そのものにも要件があり、受講時間の合計が1人あたり15時間以上であることが必要です。また受講期間には上限があり、採択された公募回によって「24ヶ月以内」または「個人への支援期間(2027年3月31日)を超えないこと」などの条件が設定されています。MBAのように長期にわたる講座を検討する場合は、上限に収まるか事前の確認が欠かせません。プログラミングの講座でも、仕事と並行して少しずつ進めるつもりの人ほど期間は延びがちなので、受講期間の上限は自分の学習ペースと照らし合わせておきたい条件です。
対象講座を持つ補助事業者は、プログラミング・マーケティング・AI関連・Webデザイン・動画編集など、人手不足や将来性の高い分野が中心です。
専門実践教育訓練給付金との違い
| 項目 | 専門実践教育訓練給付金 | リスキリング支援事業 |
|---|---|---|
| 所管 | 厚生労働省 | 経済産業省 |
| 対象者 | 雇用保険の被保険者・被保険者だった人(離職中でも使える) | 転職を目指す在職者のみ |
| 申請先 | ハローワーク(個人が直接申請) | 採択された補助事業者(個人が国に直接申請するのではない) |
| 支給率 | 50%→就職等で70%→賃金上昇で80% | 修了時1/2→転職1年継続で1/5追加(合計最大70%) |
| 支給の受け取り方 | 個人の口座に給付金が振り込まれる | 個人への現金給付ではなく、事業者経由で受講費用が軽減される |
| 受講前の手続き | 訓練前キャリアコンサルティング、受給資格確認が必須 | 補助事業者のキャリア相談を通じて進める |
| 他制度との併用 | 制度上、別の給付金と重複受給できない場合がある | 国が支出する趣旨を同じくする他制度との併用は不可 |
専門実践教育訓練給付金は、受講料を支払ったあとに給付金を申請して受け取る仕組みです。リスキリング支援事業は、公式FAQで補助事業者が負担軽減の費用を負担する時期は問わないとされており、支払いの時期は補助事業者ごとに異なります。手元資金が足りない場合は、分割払いの可否を先に確認する必要があります。
特に併用可否については、2025年8月29日更新の公式FAQで「国が支出する趣旨を同じくする他の制度との併用はできない」ことが明記されました。詳しくはFAQの項で解説します(出典:careerup.reskilling.go.jp よくあるご質問 No.148)。
対象講座を探す方法
この制度に採択されている補助事業者・講座は、経済産業省の公式サイトで確認できます。プログラミングスクールの中にも対象コースを持つところがあるため、申し込みを検討しているスクールの公式サイトで「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の対象かどうかを確認するか、無料カウンセリングの際に質問してください。
対象講座を持つ補助事業者を採択する公募は、2023年3月の一次公募から始まり、2025年8月4日〜9月16日の六次公募まで実施されました。2026年9月確認時点で、次回公募の開始時期は公式には明言されていません。つまり現在対象講座を探す場合は、一次〜六次公募で既に採択された事業者の中から探すことになります。新しい事業者が加わる見通しがはっきりしない以上、残っている事業者の中に学びたい分野があるかどうかが、この制度を使えるかの分かれ目になります。転職支援まで同じ事業者に任せる仕組みなので、講座の中身に加えて、その事業者の支援を受けたいと思えるかも考えに入れる価値があります。個人が新たにこの事業を利用できる期限は、六次公募で採択された事業者について「個人への支援期間」である2027年3月31日までとされています。
採択される補助事業者・対象講座は公募のたびに見直され、時期によって変わります。過去に対象だった講座が現在は対象外になっている、あるいはその逆のケースもあるため、必ず申し込み時点の最新情報を補助事業者またはスクールに確認してください。
申請フロー・注意点
実際に個人がこの事業を使ってプログラミングスクールを受講する場合に、あらかじめ知っておきたい注意点を整理します。
- 途中で講座を変更した場合:受講中に難易度などの理由で継続が難しいと判断した場合、別の講座に変更すること自体は可能ですが、途中で中断した講座の受講費用は負担軽減の対象になりません。新しく受講した講座を修了して初めて補助の対象となります
- 資格取得が修了要件になっている講座:資格取得を修了要件とする講座で、資格取得に至らなかった場合、その講座の受講費用の負担軽減は受けられません
- 追加補助(転職後の1/5相当額)の期限:六次公募採択事業者経由の場合、支援を受ける個人は2027年4月30日までに転職を完了する必要があります。転職後1年以内に再度転職した場合も、継続的な就業という要件を満たさず追加補助の対象から外れます
- 面談記録の重要性:キャリア相談・転職支援での面談内容は、確定検査の際に検査証憑として補助事業者側で保存されます。個人の側でも面談日時や内容を簡単にメモしておくと、後日の確認がスムーズです
(出典:careerup.reskilling.go.jp よくあるご質問 No.33〜35、90〜91、107、2026年9月確認)
リスキリング支援事業に関するよくある質問
個人が直接、経済産業省に申請するのですか
いいえ。この制度は個人が国に直接申請する制度ではなく、経済産業省に採択された補助事業者(転職支援会社やスクールなど)が実施するサービスを通じて利用します。まず対象講座を持つ補助事業者を探すことが最初のステップです。
契約社員やパート、派遣社員でも使えますか
使えます。正社員に限らず、契約社員・パート・アルバイト・派遣社員、休職中で雇用契約を継続している人も対象とされています。副業・兼業をしている在職者も、支援開始時に雇用契約があり、雇用主の変更を伴う転職を目指していれば対象です(公式FAQ)。副業やフリーランスとして独立することだけが目的の利用は、転職を支援する事業の趣旨に合いません。
離職中でも使えますか
使えません。対象は転職を目指す在職者のみです。離職中の場合は、専門実践教育訓練給付金など別の制度を検討してください。
専門実践教育訓練給付金と併用できますか
同じ講座については併用できません。経済産業省公式サイトのFAQ(2025年8月29日更新)では「国が支出する趣旨を同じくする他の制度との併用はできない」と明記されており、補助事業者は本事業で支援した個人に対し、専門実践教育訓練給付金など他制度で必要な教育訓練修了証明書等を発行してはいけないとされています。異なる時期に別の講座でそれぞれの制度を使えるかどうかまでは公式FAQに明記がないため、個別のケースは補助事業者または管轄窓口に確認してください。
支給率はどのように決まりますか
講座修了で受講費用の1/2相当額(上限40万円)、転職して1年間継続就業すると追加で1/5相当額(上限16万円)、合計最大56万円が負担軽減される仕組みです(詳細は「リスキリング支援事業とは」の項を参照)。各補助事業者によって具体的な運用が異なる場合があるため、申し込み前に確認が必要です。
プログラミングスクールでこの制度は使えますか
スクールによります。ポテパンキャンプやSAMURAI ENGINEERなど、経済産業省の公式一覧に掲載されているプログラミング・IT系のスクールもありますが、公募のたびに対象講座が見直されるため、申し込み時点の最新情報を各スクールに確認してください。
1年間継続就業しなかった場合、修了時の1/2相当額の給付は取り消されますか
修了時に反映される1/2相当額は講座修了に対する給付で、1年継続就業後の追加1/5相当額とは別の条件です。ただし詳細な条件は補助事業者によって異なる場合があるため、契約前に確認しておくことをおすすめします。
公務員や独立行政法人の職員でも使えますか
原則、国家公務員・地方公務員は対象外です。この事業は企業等と雇用契約を締結している人を対象としているため、公務員はこの要件に当てはまらないと整理されています。ただし、雇用保険に加入している国家公務員・地方公務員、および独立行政法人等の職員は、雇用保険加入者として支援の対象になります(2026年1月・5月更新の公式FAQによる)。
今から新しく対象講座を持つスクールが増えることはありますか
この事業の補助事業者を採択する公募は、2023年3月の一次公募から2025年9月の六次公募まで実施されており、2026年9月確認時点で次回公募が予定されているという公式発表はありません。今後利用できるのは、既に採択された事業者の講座に限られる可能性が高い状況です。最新の公募状況は、経済産業省の公式サイトで確認してください。
まとめ
リスキリング支援事業は、専門実践教育訓練給付金と違い、個人が直接ハローワークに申請し給付金を受け取る制度ではありません。経済産業省に採択された補助事業者に補助金が支払われ、個人はその事業者を通じて負担が軽減された受講料でキャリア相談・講座受講・転職支援を一体的に受けられる仕組みです。対象は転職を目指す在職者に限られ、専門実践教育訓練給付金など趣旨が同じ他制度との併用はできません。対象講座を持つ事業者は公募のたびに変わり、個人が利用できる期限も2027年3月末までとされているため、申し込み前に必ず最新の対象状況と期限を確認してください。
参考:経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業について」(2024年11月15日、産業人材課公表資料)、経済産業省・リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業公式サイト(careerup.reskilling.go.jp)「転職をご検討の方」「申請をご検討の事業者」「よくあるご質問(2026年4月8日最終更新)」「各補助事業者の事業開始状況(2026年9月14日更新)」の公表情報(2026年9月確認)。制度の詳細・対象講座の最新情報は、必ず経済産業省の公式サイトまたは各補助事業者で確認してください。
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